3.3 国際出願

日本国内における発明や考案の保護は、日本国の特許法や実用新案法という法律に基づき特許や登録を受けることにより保護されることは、これまでの説明でご理解をいただけたと思います。日本国の特許法や実用新案法による保護は、もちろん外国では効力はありません。しかし、こうした発明や考案の登録による保護制度は、パリ条約(*注1)により、国際的にいわば標準化されており、パリ条約の加盟国であれば、同様の登録による保護制度により、大方の外国でもその国の法律により保護されています。
*注1:パリ条約とは、1883年にパリで締結された工業所有権の保護に関する条約で、その後改正が繰り返され、1967年にストックホルムで改正され、1979年に修正され最新となっています。日本は、1899年(明治32年)に加盟し、2008年現在の加盟国は171ケ国に及んでいます。

あなたの発明や考案による商品が外国の市場で、模倣品などとの競争に曝されないで保護されるためには、その外国で特許や登録を受ける必要があります。では、外国で特許や登録を受けるにはどう手続きしたらいいのでしょうか。
この手続きには、二通りあります。
一つ目は、外国ごとにそれぞれの国の法律に基づいた手続きを経て、それぞれの国の法律に基づいた保護を受ける方法です。その国がパリ条約加盟国であれば、ほぼ日本国と同様な手続きにより、同様な保護を受けることができます。
二つ目は、特許協力条約(PCT : Patent Cooperation Treaty)(*注2)に基づく方法です。これは、ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度です。受けることができる保護はほぼ日本国と同様です。
*注2:特許協力条約(PCT)とは、パリ条約に基づく特別取極めの一つとして、特許出願の国際的方式を統一するために、1970年にワシントンで採択された条約です。日本は、1978年に加盟し、2009年現在142ケ国が加盟しています。

この二通りの手続きは、概略の流れを図示すると次ページの図ように比較できます。
複数の外国に出願するのであれば、その外国がPCT加盟国であれば、二つ目のPCTに基づく手続きのほうが、出願までは国ごとの書類、国ごとの言語、国ごとの代理人が不要となり、出願人の労力や負担は少なく、明らかに有利です。ここでは、PCTに基づく手続きについて、もう少し詳しく見ることにしましょう。

(1)PCT国際出願日
経済競争のグローバル化とともに、多くの外国で製品を販売するため、模倣品から自社製品を保護するため、特許を取りたい国の数が増加する傾向にあります。また、先願主義のもと、出願日を早く確保しようとしても、すべての国に対して同日に、それぞれの国の言語で、それぞれの国の出願願書を提出することは、非効率的であるばかりでなく、ほぼ不可能といえます。
PCT国際出願は、このような非効率さを改善するために設けられた国際的な特許出願制度です。PCT国際出願では、国際的に統一された出願願書を受理官庁である自国の特許庁(日本の場合日本特許庁)に対して、1通だけ作成し提出すれば、その時点で有効なすべてのPCT加盟国に対して、国際出願に与えられた国際出願日が、それらすべての国においての「国内出願」の出願日となります。

(2)PCT国際出願の指定国
特許を受けたい国を出願時に指定する制度でしたが、2004年以降は、出願時に、PCT全加盟国が自動的に指定される制度になっています。そうして、まず全加盟国に対して国際出願日を確保して、各国で実際に権利化するかどうかを十分検討したうえで、国際出願から(優先日があれば優先日から)(注*3)30月後に、特許を受けたい国を絞り厳選し、それらの国のみで国内移行手続きを始めることができます。
*注3:優先日とは、パリ条約による優先権があると主張する、先の特許出願の日です。先願主義のもと、同じ発明であれば、どの出願が最先であるかが権利の帰趨を決めることになります。パリ条約の同盟国間では、ある国でした先の特許出願は、その出願日から12月間は他の国でも既にその出願日に出願したという優先権を主張できる制度です。従って、優先権の主張がある場合には、国際出願手続きは、優先日が基準の日になります。

(3)国際公開
国際公開は、国際出願から(優先日あれば優先日から)(注*3)18月経過後速やかに国際事務局が行います。2006年以降の国際公開の形式は、電子形式になっています。WIPO(World Intellectual Property Organization世界知的所有権機関)のホームページで検索できます。なお、国際公開の言語は、アラビア語、英語、韓国語、スペイン語、中国語、ドイツ語、日本語、フランス語、ポルトガル語又はロシア語とされています。

(4)国際調査、国際予備審査
すべての国際出願に対して、国際調査が行われます。国際調査は、関連のある先行技術を発見することを目的とし、明細書及び図面に妥当な考慮を払った上で、請求の範囲に基づいて行われます。国際調査は、国際調査機関によって行われますが、日本特許庁が受理した場合の国際出願の管轄国際調査機関は日本特許庁を選択することができます。また、この国際調査報告書は、通常調査用写しを国際調査機関が受領後3月で作成されます。
出願した発明に類似する発明が過去に出願されたことがあるかの調査が行われ、その際には、その発明が進歩性、新規性など特許取得に必要な要件を備えているか否かについて審査官の見解も作成されます。それらの調査結果や見解は、出願人に提供されますので、出願人は、自分の発明の評価をするための有効な材料として利用することができます。
さらに、出願人が希望すれば、特許取得のための要件について国際予備審査を受けることもできます。但し、国際予備審査の請求は、通常、国際調査報告の送付から3月以内にしなければなりません。国際予備審査は、請求の範囲に記載されている発明の新規性・進歩性・産業上の利用可能性について、予備的な拘束力のない見解を示すことを目的とします。

これらの制度を利用することで、特許取得の可能性を精査し、緻密に厳選した国においてのみ手続を継続させ、コストの効率化、適正化が可能となります。
また、PCTは、各国への出願日を確保するという出願の手続を簡素化するだけでなく、各国で共通的な特許を受ける基準である新規性・進歩性・産業上の利用可能性について、予め審査を受けることができるという、PCT国際出願に独自の制度になっています。

(5)各国の国内移行手続き
国際調査や国際予備審査の結果を考慮して、必要であれば補正も行い、最終的に特許を受けたい国で特許を受けることができるかどうかは、その国の審査を受ける手続きに進まなければなりません。これをその国での国内移行手続きといいます。
具体的には、国際出願から(優先日あれば優先日から)(注*3)30月経過前に、特許を受けたい国が認める言語で翻訳した翻訳文を、必要に応じて手数料とともに、その国の特許庁に提出しなければなりません。
なお、翻訳文を提出せず、上記30月を経過してしまいますと、その国の国内出願の取り下げと同じ効果をもって、国際出願は消滅しますので注意が必要です。また、出願人の請求がなければ、上記30月以前には国内移行には進みません。翻訳文や手数料の納付で、各国の国内移行が一斉に進むことになります。
こうして、各国の審査を受ける段階になると、外国ごとにその国の法律で定めた手続きを経る必要があること、それぞれの国で代理人を立てる必要が生じることは、一つ目の方法と同じです。


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