4.特許権・実用新案権とは

特許を受けたり、実用新案登録を受けたりすることで、その発明や考案を独占排他的に業として実施する権利が生じることを、これまでの説明でご理解いただけたと思います。ここでは、その特許権や、実用新案権をもう少し詳しく見ていきます。

まず、特許権は、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」(特許法第六十八条)とされ、実用新案権は、「実用新案権者は、業として登録実用新案の実施をする権利を専有する。」(実用新案法第十六条)とされています。発明や考案を「実施する」権利が独占排他的なものとされています。では、「実施する」とは、具体的にどういう行為が該当するのか、見ていきます。

特許権の場合には、
「一  物(プログラム等を含む。)の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。)をする行為」(特許法第二条第三項第一号)
「二  方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為」(特許法第二条第三項第二号)
「三  物を生産する方法の発明にあっては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」(特許法第二条第三項第三号)
と定義されています。単に発明商品の生産という狭い範囲にとらわれず、経済活動の様々な場面が発明の実施として、広くとらえられています。

実用新案の場合には、
「考案に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸出し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をする行為をいう。」(実用新案法第二条第三項)
と定義されています。特許の場合の物(プログラム等を含まない。)の発明に限定すると同じ行為に当ります。

次に、「実施する」範囲は、どこまでが専有されるのか、を見ていきます。
特許の場合、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」(特許法第七十条第一項)とされ、実用新案の場合もこの特許法を準用しています。では「特許請求の範囲」の解釈は、実際にはどう行われているのでしょうか。
2.保護を受けることができる発明・考案とはで説明しました要件である、新規性(公知の発明と同じでないこと)、先願であること(先願と同一でないこと)や、拡大先願でないこと(先願の書面記載と同一でないこと)の審査では、他の発明と同じかどうかは、どう判断されるのでしょうか。

例えば、「刊行物に記載された発明」(特許法第二十九条第一項第三号)とは、記載されている事項と記載されているに等しい事項から把握される発明、とされています。「記載されているに等しい事項」とは、出願時の技術常識を参酌して導き出せるもの、とされています。「技術常識」とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術や慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項、とされています。

また、例えば、二つの発明が同一であるかどうかは、それぞれの発明特定事項に相違点がなければ、同一とされます。但し、相違点があっても、次の場合には実質同一とされています。
① 後願発明が先願発明に対して、周知技術や慣用技術の付加・削除・転換など施したものに相当し、かつ、新たな効果を奏するものではない場合、
② 後願発明の表現が、下位概念である先願発明の上位概念の表現であるための差異である場合、
③ 後願発明と先願発明とが単なるカテゴリー表現上の差異である場合、
は実質同一とされています。

実際の権利侵害の事件では、どう判断されるのでしょうか。実際の裁判では、均等論という「特許請求の範囲」の解釈の判断基準が示されました(平成十年二月最高裁判所判決「ボールスプライン事件」)。均等論とは、特許請求の範囲と異なる部分があっても、以下の条件が揃う場合、その製品や方法は特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして扱う、という判断基準です。
① 特許発明の本質的な部分ではないこと、
② 置き換えても特許発明の目的を達成できること、
③ 置き換えることが、当該技術分野の通常の知識を有する者(いわゆる当業者)が、その製品の製造時などで容易に想到できたものであること、
④ その製品や方法が特許出願時の公知技術と同じではなく、当業者が出願時に容易に推考できたものでないこと、かつ
⑤ その製品や方法が特許出願手続きで特許請求の範囲から意識的に除外するなど特段の事情がないこと。

特許の場合には、上述した独占排他的に実施する権利の他に、3.2 出願手続きの流れの特許③で説明した、補償金請求権が特許出願をするだけで生じます。これは、出願から1年6月で出願公開された後は、特許を受ける前であっても、即ち権利化される前であっても、第三者による発明の実施を防止できるようにする制度です。
もし、第三者が出願公開されたあなたの発明を勝手に実施していたら、あなたはその第三者に対して補償金の支払いを請求する旨の警告をすることができます。こうして警告をしておけば、あなたの発明が特許を受けた暁には、原則として、あなたの特許発明の実施で受けるべき金銭の額に相当する補償金の支払いを請求することができます。但し、あなたの特許出願の際に、既に第三者が独自に発明して、その実施である事業をしているか、事業の準備をしている場合には、例外としてあなたは、補償金の支払いを請求することができません。

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