3.出願の手続きとは

特許を受けようとする場合には、特許出願という一定の出願手続を、実用新案登録を受けようとする場合には、実用新案登録出願という一定の出願手続を必要とすることを、1.特許・実用新案とはの説明でご理解いただけたと思います。また、特許又は実用新案登録を受けることができるための要件についても、2.保護を受けることができる発明・考案とはの説明で概略ご理解いただけたと思います。
ここでは、それらの出願の手続きについて、もう少し詳しく、誰が、いつ、何を手続きするのか、を見ていきます。

(1)誰が手続きするのか
出願の手続きについては、特許の場合は、特許を受ける権利を有する者又は特許を受ける権利を承継した者が、出願人(いわゆる名義人)となって出願手続きをすることができます。実用新案の場合は、実用新案登録を受ける権利を有する者又は実用新案登録を受ける権利を承継した者が、出願人(いわゆる名義人)となって出願手続きをすることができます。
特許を受ける権利は、発明することにより生じ、発明者に自然に帰属します。実用新案登録を受ける権利は、考案することにより生じ、考案者に自然に帰属します。従って、発明者自身が出願人(いわゆる名義人)となって出願手続きをすることができますし、発明者から特許を受ける権利を承継した人や企業が、出願人(いわゆる名義人)となって出願手続きをすることができます。

特許の場合、出願審査の審査官から拒絶理由通知を受けた場合の補正など、実用新案の場合、特許庁長官から補正命令を受けた場合の補正などの専門的な手続きは、出願人様が代理人(弁理士など)に委任していれば、通常の委任代理権の範囲で代理人によって、それらの手続きはなされます。但し、出願人様が代理人に委任していても、権利の消長に直接かかわるような出願の放棄や取り下げ、特許権の放棄などの手続きは、出願人様から代理人に対して、特別な授権がなければ手続きすることはできません。従って、出願人様が専門的な手続きも含めて、代理人に委任される場合には、包括委任状を提出いただくことが推奨されます。

特許の場合、出願審査の請求は、出願人様以外でも誰でもできます。出願された発明が権利化されるか否かの中途半端な状態が、少なくとも出願から3年間は続く可能性があります。このような状態は第三者の事業に影響を与える場合があり、第三者でも、出願審査の請求をできるようにして、この状態を早く解消できるようにするためです。但し、出願審査の請求は取下げることができませんので注意が必要です。一旦特許庁での審査官の審査作業が始まりますと、後戻りして無駄を生じることが許されないことによります。

(2)いつ手続きするのか
同じ発明や考案であれば、先に出願したもののみが、特許や実用新案登録を受けることができることは、2.保護を受けることができる発明・考案とはでご理解いただいたとおりですが、この先願主義のため、出願手続きは一刻を争わなければなりません。
と同時に注意しなければならないことがあります。特許出願以前に発明を公表することは、できるだけ避けることが賢明です。出願前に、論文を出したり、試験をしたり、学会で発表したりする場合には、出願時には公然と知られた発明になってしまい、保護を受ける要件を満たさないことになってしまいます。特許法第30条では、一定の期間内及び一定の条件の範囲をもって、出願前公表の救済規定を設けていますが、特許出願前にはできるだけ公表しないことが最善です。これは実用新案でも同じことがいえます。カタログの配布や展示会などの出品には、出願を済ませてから行うことが大事です。

特許の場合、出願審査の請求の手続は、出願から3年以内にしなければなりません。

その他、専門的なことになりますが補正などの手続きは、特許の場合には事件が特許庁に係属している場合に限ります。実用新案の場合には出願から1月に限るほか、審査官や特許庁長官の指定した期間にしなければなりません。

(3)何を手続きするのか
基本的には、手続きごとの書面を作成し提出し、手続きごとの所定の手数料を特許印紙で納付しなければなりません。

特許出願の手続きの場合には、願書を提出し、願書に明細書、特許請求の範囲、必要な場合には図面も加えて添付し、要約書を添付しなければなりません。実用新案登録出願の手続きの場合には、図面も必ず添付しなければなりません。実用新案の場合は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案が出願の対象であり、内容の理解に図面が欠かせないからです。

既に公知となっている技術の発明や考案は保護を受けることはできないのですから、事前に特許公報、公開特許公報、実用新案公報などをよく調査する必要があります。それは、単に無駄に終わってしまう出願や審査請求を節約する消極的な意義があるばかりでなく、審査で拒絶されにくい、権利の争いになりにくい、書類上の権利の記載に積極的に活用する必要があります。(注*参照)

特許の場合、出願審査の請求は、出願審査請求書を提出しなければなりません。

専門的なことになりますが、補正する場合には手続き補正書を提出し、拒絶理由通知に対しては、意見書を提出して反論することができます。

注*:このような先行技術調査に関して、調査になかなか手の回らない中小企業などの発明を奨励する目的で中小企業等特許先行技術調査支援事業があります。これは、中小企業・個人出願人からの依頼(その出願代理人からの依頼を含む。)により、特許出願後の調査を無料で調査事業者が実施し、調査にかかった費用は特許庁から調査事業者に支払いをするものです。

更に詳しくは、ご遠慮なくお尋ねください。